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会長挨拶・コラム COLUMN

令和2年2月:「ここ、今、自分」の価値観

第13代会長 栗原 勝美 先生

会長 栗原 勝美

令和2年が明け、1ヶ月余りが経ちました。56年ぶりの東京オリンピック・パラリンピックの開催に高揚感もありますが、一方で国内外には政治・経済・社会問題が山積し、不透明な状況もあります。新しい令和の時代はどのような時代になるのか気掛かりです。

様々な課題を前に、近年、自助、共助、公助が叫ばれる中で、自助努力が強調される社会になってきているように感じているのは私だけでしょうか。障害者には共助、公助の理念に基づき、障害者が自立できるような具体的な施策と心のバリアフリーの推進が必要です。とりわけ、低頻度発症の視覚障害者は他の障害者に比べて数が少なく、障害者を一括りとした障害者施策では全体の中に埋没してしまい厳しいものがあります。しかし、国は障害特性に応じたきめ細かな対応ができていません。だからこそ、視覚障害当事者は、様々な場面で具体的な提案、要望、行動をしていかなければなりません。もちろん、そこに甘えの構造があってはならないことはいうまでもありませんが。

今、私が気になっているのは「ここ、今、自分」の価値観が年齢を問わず拡がっているということです。「ここさえ良ければ、今さえ良ければ、自分さえ良ければ良い」という価値観、いわゆる新自由主義ともいわれる考え方が拡がっていることにある種の違和感があります。

理教連は一人一人の会員によって支えられています。もし、会員一人一人が「ここ、今、自分さえ良ければ良い」という価値観を優先して行動するようになれば、課題山積の理療教育に未来はありません。この機会に、自己を見つめ、自分に課せられている期待に応えていく努力を積み重ねていこうではありませんか。

私が本連盟の会長に就任してから5年が過ぎようとしています。この間を振り返ると、成果よりも解決されない課題の方が多いように感じます。就労問題、理療科・保健理療科に在籍する生徒の減少・多様化、適正な国家試験の在り方、機能訓練指導員の資格要件に、はり師、きゅう師が加わってしまったこと等、解決できない課題や止むを得ず譲歩したことなど、ジレンマが付きまとい、無力感に苦悩することもあります。

この正月、私はそんな思いに悩まされながらテレビ・ラジオに耳を傾けて過ごしました。寝正月のだらだらとした生活の中で前述した「ここ、今、自分」の価値観についての話しや様々に苦労して社会貢献している人たちの話が聞こえてきました。「私は果たしてここ、今、自分」の価値観で動いていないか」、「仕方がないとあきらめていないか」、「何とかしなければという強い思いをもっているか」等、自問自答しながら今を過ごしています。

人間の技能習熟の過程を研究したものにドレイファス・モデルがあります。これは、アメリカの哲学者であるドレイファス兄弟がパイロットなどの高い技能を必要とする集団を対象に技能の習熟過程を観察・研究し、第1段階(初心者)から第5段階(達人)の5段階にモデル化したものです。このモデルの第1段階(初心者)は、経験はほとんど無く、マニュアルがあれば遂行できるレベルです。第2段階(中級者)は、独力で仕事に当たれるが問題処理に手こずる、全体像をつかむのが得意でないレベル、第3段階(上級者)は問題を探し出し解決できるレベル、ただし問題のどの部分に焦点を合わせるかなどの決定には更なる経験が必要なレベル(初心者への助言・指導ができるレベル)、第4段階(熟練者)は、十分な経験と判断力を備え、他人の経験等から学び、自己補正・自己改善ができるレベル、第5段階(達人)は、膨大な経験や学びから状況に応じた判断が直感的にできるレベルとしています。根拠のない直感は危険ですが、膨大な経験と学びに裏打ちされた直観的な判断はとても大切だと思います。また、1年間の経験を9回繰り返しても上達しないとも言っており、考えながら経験を積み上げ、学ぶことが大切だともしています。

理療科・保健理療科は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師という技能集団を育成するところです。とすれば、私たち教員は、あはきの技能、指導法の技能を高める必要があります。さて、私たちは、ドレイファスモデルのどのレベルにあるでしょうか。理療教育の様々な課題を解決するには、私たち一人一人の資質の向上が求められていることを自覚し、自己点検してみてはいかがでしょうか。

視覚障害者の理療教育は、存続の危機を加速させています。理療科教員養成施設も定員割れ、筑波技術大学も定員割れ、各盲学校の理療科・保健理療科にも生徒は集まらない、魅力ある進路はどうするのか、放置しておけば職業課程としての理療教育は消滅しかねません。現実に在籍している生徒が大切、授業が大切、しかし、それは理療科・保健理療科があってこそです。理療教育の存続・発展のために強い思いをもって取り組む覚悟を新たにして、共にがんばりましょう。?