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会長挨拶・コラム COLUMN

令和4年11月:視覚障害者の集団の中で学ぶからこその理療科の魅力

第14代会長 工藤 滋 先生

会長 工藤 滋

2022年9月9日、国連障害者権利委員会は、日本政府に対して障害者権利条約の履行状況について勧告を行い、その中で特別支援教育の中止を提言しました。その趣旨は、特別支援教育は分離教育であり、その存在によって通常教育に加われない障害児が現れていることから、特別支援教育を中止して、通常学校が障害児の入学を拒めないようにする必要があるというものです。これに対して文部科学省は、2012年7月23日に特別支援教育の在り方に関する特別委員会が出した「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」に基づいて、「インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、幼児児童生徒の個別の教育的ニーズに最も的確に応えられるように、小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。」と説明しました。

障害者権利条約第24条には、教育制度の目的として「障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと」、「障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、初等中等教育を享受することができること」を掲げておりますが、その一方で、障害者が教育及び地域社会に完全かつ平等に参加する上で必要な技能を習得するために、「点字、定位及び移動のための技能の習得並びに障害者相互による支援及び助言を容易にすること」、「視覚・聴覚及びその重複障害者の教育が、その個人にとって最も適当な手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること」とも述べられています。目的を狭い意味で解釈すれば、特別支援教育、特に特別支援学校は障害者権利条約の理念に当てはまらないかも知れません。しかし、視覚特別支援学校における教育は、指導において視覚障害に配慮した特別な支援を必要とするということであって、内容的には一般的な教育制度の中にあります。確かに視覚特別支援学校は各県に1校しかない場合が多いため、自己の生活する地域社会で教育を受けられる者は少ないかも知れませんが、社会参加を実現する上での技能習得という点からは、高い専門性を有する教員の元で指導を受けられ、障害者の中でも少数派である視覚障害者が相互の支援や助言をし合えるコミュニティを形成していて、学問的及び社会的な発達を最大にする環境であると言えます。つまり、広い目で見れば、必ずしも理念に反するとは言えないのではないかと考えられるのです。そして何より日本には、特殊教育によって培われてきた障害種別に特化した高い専門性という特別な教育のベースがあります。さらに障害種別、障害の程度、個々の教育的ニーズをも踏まえれば、日本においては「多様な学びの場」の1つとして、特別支援学校があって良いと考えます。

理療教育については、2021年度の理療関係学科在籍生徒の年齢構成で、30歳以上が63.0%を占めていて、中途視覚障害者の割合が高いことが推察されます。中途視覚障害者の回復と自立の過程においては、ピア・サポートの有効性が示されています。また、視覚特別支援学校で生活を送ることによって、いわゆる心的外傷後成長と呼ばれる、障害を有するようになったこと等を契機として成長を遂げるポジティブな心理的変容を高めるという報告もなされています。日常の教育場面を考えてみても、理療科は教員の大多数が視覚障害当事者であることから、視覚に依存しない方法での学習・生活・職務のノウハウの宝庫であり、教員自身が生徒にとっての将来のロール・モデルともなっています。これらのことから視覚障害者を対象とする理療教育は、視覚特別支援学校ないし視覚障害者センターにおいて行われるのが最適であると考えます。

日本において特別支援学校は障害者の教育の場として不可欠なものです。そしてその中の理療科は、単に手に職をつけるための課程というだけでなく、視覚障害者が社会で生き抜いていく上で必要となる多くの事柄を得られる場であり、これこそが理療科の魅力にほかなりません。しかし、まだまだこの良さが十分社会に知られていないというのが現状です。そこで視覚障害者の集団の中で学ぶからこそ生み出されているこのすばらしい理療科の魅力を、私達で力を合わせて、情報発信していこうではありませんか。