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会長挨拶・コラム COLUMN

令和6年2月:視覚障害者の適職としての理療を後世に継承していくために

第14代会長 工藤 滋 先生

会長 工藤 滋

今年度の盲学校実態調査をみてみますと、理療科と保健理療科を合わせた理療関係学科の在籍生徒数は517名で、2013年度の1,209名から10年間で692名減少しています。1年に69名というのは、毎年小さな盲学校3〜4校分の生徒がごっそりいなくなっているのと同じ数に当たります。これを2013年度を100%とした割合でみると、42.8%と、この10年間で半数どころか4割強にまで減少していることが分かります。こうした状況を受けて全国の理療科の先生方は、潜在的な理療関係学科志望者に情報提供する方策を検討し、積極的にそれを実施して来ました。本連盟も、2019年度より開催している中央研修会のテーマを、理療教育・理療業の啓発を中心とした内容にして、よりよい方法の共有と課題の解決策の検討を行ってきました。しかし、全国的な少子化の傾向に変化は見られず、インクルーシブ教育の進展により、理療を知らないまま社会に出る視覚障害者も増えてきて、生徒数減少は歯止めがかからない状況です。そして今後もさらに減少していくことが予想されます。これは理療科、盲学校の存続の危機と言える状況です。

盲学校実態調査に戻って、今度は各学年当たりの生徒数に着目してみてみます。すると、生徒が1人も在籍していない欠学年の数は106で、設置学科数を3倍した総学年数に対する割合は28.1%に達しています。そして1学年当たりの平均生徒数は1.4名です。人口の多い地域の盲学校に一定数の生徒がいると考えると、多くの盲学校の理療科は1人学級になっていると思われます。1対1の授業は、生徒の実態や教育的ニーズに合わせた手厚い指導ができる利点があります。しかしその一方で、いろいろな人と話をする中で高められていくコミュニケーション能力、様々な年齢・体型・性格の相手に対して施術することで身についていく実技の応用力を習得する機会が確保できなくなっているのではないかと危惧します。これは、決して視覚障害者の職業自立に適した環境とは言えません。そう考えると、今はある意味で、理療教育の危機とも言える状況になっているのではないかと思います。

それでは、盲学校を統合すればそれで解決するかと言えば、そう単純なものではありません。というのも、もしもある都道府県から視覚障害者の理療教育に関する機関が一切なくなってしまったら、おそらくその地域では「理療が視覚障害者の適職である」ということ自体が忘れ去られてしまうだろうと思うからです。現在の在籍生徒は少数でも、これまでに盲学校理療科を卒業して地域で働いている理療師は一定数いる訳ですから、そうした理療の免許を有する者に対するリスキリングと、一般社会に対する理療教育・理療業の啓発を目的とする拠点は必要であると考えます。

このまま何もしないで放っておけば、全国の盲学校は、1つまた1つと自然に消えて行ってしまいます。けれども、ここで知恵を絞って何かを提案できれば、視覚障害者の適職としての理療を後世に継承していくことができるかも知れません。これには、おそらく大きな痛みを伴う決断が必要だろうと思います。それでも、今動かなければ、理療は視覚障害者の手から離れていってしまうに違いありません。

こうした背景から、本連盟では2020年度に理療教育に関する将来構想検討委員会を設置して、理療教育が直面する短期的課題、中・長期的課題についての意見をまとめるよう諮問しました。その約3年に亘る活動のまとめとして、昨年8月に『2040年を見据えた理療教育のよりよい在り方について(答申)』が理事会宛てに提出されました。昨年11月28日に理教連メーリングリストを通じて会員に配信した資料がそれに当たります。この資料は、若手を中心とする将来構想検討委員会が、既成概念にとらわれない柔軟な発想と、あらゆる可能性を排除しない姿勢でまとめた答申です。そのため理事会では、この答申をそのまま提案とするのではなく、あくまでも参考資料として活用した上で、改めて理事会の案を会員に提示していくことにしています。その1つとして、12月2日に開催された第3回理教連研修会では、「本科保健理療科は存続させる」という理事会案を提示しています。今後も機会を作って、随時理事会の案を伝えていく予定です。そして、この1年をかけて理療教育に関する将来構想についての提言書をまとめ、2025年7月の総会に提案することを考えています。

そこで会員の皆様にも、理事会と並行して、それぞれに視覚障害者の理療教育存続のための方策を考えていただきたいと思っております。ただ、答申は膨大な分量になっていますので、どこから手を着ければいいのか迷ってしまうかも知れません。そういう場合には、理療科の統合あるいはブロック化、本科保理科の存廃、入学前・卒業後の課程の設置等の制度改正や現在の枠組みを大きく変更する必要のある内容から考えてみてください。そして、会員個々が考えた意見を各校・施設でまとめ、さらに各支部で話し合うという形で議論を進めてください。

私は、とにかくこのすばらしい職業である理療を、将来にわたって視覚障害者の適職として後世に継承していきたい、視覚障害者が職業自立していく手段として、なんとしても存続させていかなければならないと思っております。そのためにこの1年間、ぜひみなさんの力を貸してください。“三人寄れば文殊の知恵”、全会員が集まれば、その200倍以上もの知恵になりますから、きっと良い解決策にたどり着けるはずです。