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会長挨拶・コラム COLUMN

平成29年10月:理療教育の課題

第13代会長 栗原 勝美 先生

爽やかな秋を迎えましたがいかがお過ごしでしょうか。あはき国家試験を控えた3年生にとっては追い込みの秋でもあり、生徒の皆さんは、日夜国家試験合格に向けて努力していることと思います。夏休み中に行われた全日盲研理療分科会でも、国家試験を念頭において、学習指導に関する様々な取り組みが報告されていました。これまで研究会等で見聞きする各校の国家試験に向けた指導の工夫について考えると、「これ以上何をしたら良いのか?」と思うほど、各先生方が熱心に取り組まれている様子が分かります。国家試験の合格ラインに達しない生徒一人一人について、健康状態や心の動きに留意しながら、学習スタイルのみならず、生活スタイルにまで踏み込み、生徒と一体となって指導している様子を聞くたびに、我が身を振り返り参考にしているところです。

さて、夏休みは教員にとっては研修の夏でもあります。この夏も、多くの先生方が様々な研修会に参加され、自己研鑽に励まれたことと思います。私も、のべ10日間、研究会・研修会に参加し、多くのことを学び考えました。以下に、研究会等を通して私が考えたことに触れながら、理療科の課題について概観したいと思います。

1.盲学校に求められていることと理療科教員の役割

盲学校に在籍する児童・生徒数は、平成29年度2,793人で、年々減少傾向にあります。この内、あはき課程に在籍する者は、専攻科理療科514人(前年度より-41人)、専攻科保健理療科256人(前年度より+8人)、本科保健理療科99人(前年度より-5人)です。専攻科理療科に在籍する生徒数の減少傾向が下げ止まらないこと、本科保健理療科の在籍者数が100人を割り込んだことが大きな懸念材料です。

一方、普通小・中学校の弱視特別支援学級に在籍する児童・生徒数は552人、通級による指導で学ぶ児童・生徒数は179人で増加傾向です。平成30年度からは高等学校でも通級指導が始まることになっています。

このような状況の中で盲学校の教職員に求められているものは、従来から強調されているようにセンター的機能の充実と視覚障害教育の専門性のさらなる充実です。しかし、盲学校の教職員数は生徒数減少に併せて減少しており、また、教職員の異動も大きな影を落としています。あはき教育に携わっている教職員数も平成19年の965人から869人に減少(特に、教諭と非常勤講師の減少数が大きい)しています。盲学校の教職員の在籍年数をみると、専攻科の教員では10年以上が70%、一方、専攻科以外の教員と寄宿舎指導員では3年以下が半数以上、10年以上は10%です。マンパワーにも、専門性の維持・向上にも赤信号です。

これらを踏まえると、センター的機能の充実においても、また、視覚障害教育の専門性の維持・向上に向けても理療科教員に対する期待が大きいことが分かります。すなわち、私たちには理療教育の専門性、視覚障害教育全般に関する専門性、センター機能の充実を担う役割が求められているのです。理療の教科指導をおろそかにすることなく、求められる役割を果たすために、理療科教員全員の協力が必要です。そして、私たち一人一人が全体を理解しつつ、その中で自分の役割を強く意識し、情熱をもって取り組むことが大切です。

☆センター的機能の充実とは:小・中・高等学校の教員に対する支援機能、特別支援教育に関する相談・情報提供機能、障害がある児童・生徒への指導・支援機能、関係機関等との連携・調整機能、小・中・高等学校の教員に対する研修協力機能、障害がある児童・生徒への施設・設備等の提供機能。

☆視覚障害教育の専門性とは:教科指導に関する専門性(単一視覚障害の教科指導について指導レベルや指導の専門性は担保されているか)、障害の重度・重複・多様化に対応できる専門性、学びをデザインする力、コミュニケーションスキル。

2.理療教育は誰が支える?

視覚障害者のあはき教育・業の実態が、厳しい現状であることは周知の通りです。しかし、盲学校の現状や課題について学ぶたびに思うのは、理療科教員に対する期待や応援の声は多いが、具体的な展望を聞くことは少ないと言うことです。私たち自身が未来を展望し、切り拓いていかなければなりません。

あはき課程に在籍する生徒数は減少していますが、本当にあはきを学ぶ視覚障害者はいないのでしょうか?私はそうは考えていないのです。

8月に行われた関東甲信越地区視覚障害教育研究会理療部会において埼玉県立特別支援学校塙保己一学園が「県民の日のふれあいまっさーじ」の際に行ったアンケート結果について報告されました。その中で私が「やっぱりそうだったか!」と思ったのは、アンケートに回答した182人中、塙保己一学園(盲学校)の存在を知っていた人が31.3%、また、盲学校でマッサージ師の養成教育を行っていることを知っている人が20.3%だったことです。今や、盲学校を知っている人も、視覚障害者がマッサージを行っていることを知っている人も少数派なのです。

インクルーシブ教育が始まって10年。「学びの場」を小・中・高等学校に求める児童・生徒が確実に増えてきています。大学で学ぶ視覚障害者が理療科在籍者数より多いことは以前に示したとおりです。これらの人たちに盲学校であはき教育を行っている実態やその魅力を伝え、活力あるあはき課程を取り戻すことが必要です。今、これまで以上に外部への積極的な情報発信が求められているのです。

全日盲研に参加した夜、雑談の中で長野県の先生から「視覚障害者のあはきを世界無形文化遺産に登録できないのか?」という話を聞きました。以前から視覚障害者のあはき教育・業の危機を打開するためには何かインパクトのある取り組みをしなければならないと考えていた私にとって、たいへん感動的な話でした。あはきは、パリ盲学校より100年も早く開始した世界で初めての視覚障害者の職業教育であり、これまで連綿と続いている伝統と歴史があること、そしてアジア等に対する国際貢献の実績があることなどを考えると、世界無形文化遺産として相応しいと思うのです。私は、これをことあるごとに話していこうと思っています。

3.教材・教具の充実に向けて

近年、全日盲研等での理療に関する研究の質が高まってきています。以前、明治国際医療大学の矢野先生に全日盲研理療分科会の助言者をお願いしたとき、研究の質や発表の仕方について厳しく指摘されたことがありましたが、現在は、どこの研究会に発表しても遜色のない研究発表だと思います。これは、日頃の先生方の研鑚の結果でありますが、一方で、それらの成果を学校に持ち帰り共有できているのか心配になることもあります。是非、それぞれの成果を共有し、みんなのものとして組織として発展できるようにしたいものです。

そのような取り組みを重ねることで教材・教具の共有化も進むものと思います。横浜市立盲特別支援学校の吉木先生らが3Dプリンターを活用した様々な教材を作成し、そのデータを理教連のHPに公開してくださっています。このような教材公開の取り組みを広げていければと思います。そして、理療科でも教材・教具研究会のような組織を立ち上げ、全体として教育の質を向上させたいものです。

普段から学び、考え、展望し、協力することであはきの未来を切り拓きましょう。