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会長挨拶・コラム COLUMN

平成28年10月:視覚障害者の按摩業を守りましょう

第13代会長 栗原 勝美 先生

今夏、視覚障害者の理療教育関係者、あはき業関係者に激震が走りました。7月中旬、平成医療学園グループ4校は、今年2月付で厚生労働省・文部科学省が行ったあマ指課程設置申請に対する非認定処分について、「あはき法19条は、憲法22条1項(職業選択の自由)、同31条(適正手続の保障)に違反している。」と主張し、非認定処分の無効・取消を求める行政訴訟を起こしたのです。昨年来のあマ指課程新設に関する専門学校の動きから、このような事態を予想していたとはいえ、現実に直面してみると内心穏やかではいられません。

御承知のように1998年の柔道整復師養成学校による「不指定取り消し請求事件」に国が敗訴して以来、柔道整復師、鍼灸師を養成する学校が短期間に激増しました。柔道整復師養成学校は1998年の14校(定員1050人)から2015年には109校(定員8797人)に、同様に鍼灸師養成学校は14校(875人)から93校(5665人)に増加したのです。その結果、何が起こったのでしょうか。? 厚労省管轄の鍼灸師養成学校の定員充足率は、2015年度で平均52%、今回原告になっている学校の中には20%代の学校も含まれています。多額の入学金・授業料を支払って鍼灸師になってもその免許を活かせる職場がない、鍼灸師の粗製濫造により鍼灸師の質が低下し、国民の鍼灸受療率も低下した、整形外科等の医院で行われているマッサージ療法があマ指師免許のない鍼灸師によって行われているケースがある等、鍼灸医療崩壊の危機さえ生まれています。国民も、鍼灸師も、利益をもくろんだ鍼灸師養成学校の経営者ですら、誰一人幸せになっていないのです。

今回の行政訴訟は、あマ指師養成学校を自由に開校できるようにしようとするものです。1998年の訴訟とは異なり、あはき法19条第1項の違憲性を焦点としたものですから判決確定までには時間がかかると思います。もし国が敗訴すれば、鍼灸師養成学校の乱立以上にあマ指師の養成学校ができることでしょう。大量のあマ指師が輩出されても、その市場が拡大しない限り鍼灸師と同様の状態が予想されます。国家資格を持つあマ指師が増えても、昭和35年の医業類似行為に関する最高裁判決がくつがえらない限り無資格業者は減少するはずがありません。そのような中で、視覚に障害のあるあマ指師の職域は更に制限され、働く場を失った視覚障害者は生きがいも同様に失うことになります。明確な進路がなければ、盲学校の職業課程の存続の意義もなくなります。

視覚障害者のあはき業は、その業権を守る戦いの歴史でもありました。戦後70年を振り返るだけでも、困難に見舞われた視覚障害当事者の身分確立、教育向上、業権擁護に向けた強い決意が伝わってきます。戦後間もない1947年9月23日に、政府に対するGHQの「盲人の鍼灸は禁止」を要求する事態に対して、全鍼連(現、全鍼師会)、鍼灸存続期成同盟(盲教育界)、盲学生が一体となって運動し、同年12月3日GHQから「鍼灸は禁止せず」の回答を引き出しました。1951年から1955年にかけての療術師法案成立を巡る戦いでも日盲連、全鍼連、全国盲学校理療教育制度刷新委員会(理教連、盲学校長会、日教組の連合体)が一体となって活動しました。全鍼連の有志は、1955年7月26日から四日間にわたって断食闘争を行っています。このような戦いの結果、按摩に指圧を包含する形で法改正につなげ、療術師法案の成立を阻止したのです。そして、1964年に、あはき法付則19条ができ、現在に至っています。理教連は、常にこのような活動の中で、中心的役割を果たしてきています。

付則19条は次の通りです。

「当分の間、文部科学大臣又は厚生労働大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。」

これについて、「逐条解説 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(厚生省健康政策局医事課編著、平成2年2月10日発行)によると、「当分の間とは、視覚障害者に関し、あん摩マッサージ指圧師以外の適職が見出されるか、又は視覚障害者に対する所得保障等の福祉対策が十分に行われるか、いずれにしても視覚障害者がその生計の維持をあん摩関係業務に依存する必要がなくなるまでの間ということである」としています。

今回原告は、19条制定以来50年を経過し、眼科治療の発展に伴う就学期の視覚障害者の減少や、障害者の雇用に関する法律の発展で雇用環境は改善され、50年前より職業選択の道は広がっている点を強調し、付則19条の役割は既に無くなり、19条は憲法違反だとしています。しかし、この主張には視覚障害者の生活実態や就労実態についての大きな事実誤認があります。ハローワークの統計を見ても重度視覚障害者の求職者の内8割は按摩関係の仕事に就いています。治療院の実態調査でも健常者に比べて視覚障害者の収入は明らかに低水準です。年金等をふくめた収入を見ても生活に苦しい実態がうかがえます。

この度の付則19条の違憲性を問う行政訴訟は視覚障害者の生存権、生活権を死守する戦いになります。過去の鍼灸存廃問題や療術師法案問題などと同様に、必ず勝ち抜かなければなりません。私たち一人一人が当事者意識を強く持ち、評論家ではなく、関係団体と一体となって活動することが求められています。

思想信条を超え、この1点に団結しましょう。